マーケティングオートメーションで担当者が疲弊しないためには？

前回は「マーケティングアクセラレーション」の重要性について書きました。今回は、マーケティングアクセラレーションを組織に取り込むにはどうしたらいいのか？を考えてみます。

マーケティングアクセラレーションはPDCAサイクルを高速化します。それに合わせて、これまでの組織体制や部署や担当の業務範囲も、見直していかなければなりません。これまでの体制のままでマーケティングを高速化したら、担当者の負荷は倍増してしまいます。

マーケティングを効率化するテクノロジーの力

マスマーケティングでは、立案から実施までにとても時間がかかっていました。計画では、まず期間と媒体を決めます。一回の施策で多額の費用を投入するために、マネージャー、事業部長、社長と多くの決裁を仰ぐために説明を求められ、社内の説得に非常に時間がかかります。担当者にとっては、社内を通すまでが大変な仕事でした。

その代わり、マスマーケティングは、一度、スタートすると終わるまで計画通りに進められ、途中で止めることは困難でした。施策の実施は広告代理店が中心になって行います。担当者は、施策が始まってしまえば、終了するまで見守っていればよかったのです。結果は施策が終わった後に代理店から集計結果が報告されす。すべて終わった後ですから、結果が良かったにせよ悪かったにせよ、改善は次回のキャンペーンで検討することになるので、担当は報告を上司にあげれば完了です。

デジタルマーケティングは施策を1か月、短いと1週間といったサイクルで回します。リアルタイムで結果を測定可能なため、施策の途中でもどんどん改善を行います。施策が終わる前に何度も改善を加えることでより良い結果を生み出すことを目指すのです。結果がよければ少し延長したり、結果が思わしくない場合は途中で止めるなど、期間も結果にあわせて調整していきます。施策の実施中も数値に目を凝らし、常に改善を検討しよりよい結果を求めていくと、担当者は休む間もありません。

マーケティングアクセラレーションは、並列でPDCAサイクルを回すことで、施策の実行をさらに加速します。同時進行する施策の量が増えれば、PDCAサイクルを回すための上長決裁や部署間の調整など、社内コミュニケーション業務も増えていきます。これを指揮する担当者の業務量は、成果を上げれば上げるほど、うなぎ上りに増加します。マーケティング活動以前の社内調整に明け暮れることになっては、たとえやる気がある担当者でも疲弊していってしまいます。

マスマーケティング時代とは違ったデジタルマーケティングの「速度に最適化」した仕組みの構築が不可欠なのです。継続的な速度向上を求められるデジタルマーケティングの推進を、担当者の頑張りに頼っていては、早晩限界が訪れます。そのためには2つの課題を解決することが必要です。

１．マーケティングPDCAサイクルの業務効率的化

２．施策実施に関する社内コミュニケーションの簡略化

マーケティング担当者とMAツールの役割は適材適所で考える

まず検討すべきなのは、マーケティングPDCAサイクルを効率的にこなしていくためにテクノロジーの力を借りることです。マーケティングオートメーション（MA）ツールは、ユーザーの行動をトラッキングし、ニーズを分析し、適切なセグメントを生成します。実施の計画をスケジュールとして登録すれば、マーケティング担当者が、何時、何をすれば良いか、一覧しリマインドします。責任者の承認はボタン一つで施策の公開を早めます。結果は日々、リアルタイムで更新され、改善を検討します。終了後は施策の効果を集計して、いつでも履歴を参照できるようになります。これが次の施策を実行する際のベースとなります。効果が見込まれる手段については、シナリオによる自動化で業務負荷を下げ、PDCAサイクルの高速化に貢献します。

こう聞くと、MAツールがあればすべて解決するように感じます。しかし、あくまでもツールですから過度な期待は厳禁です。導入してすぐにPDCA効率的に回せるようになる訳でも、MAツールが自動で改善を進めてくれる訳ではありません。使いこなすには担当者の努力と経験が必要になります。MAツールは、目標が明確で、タスクがルール化できるところに強みがあります。特に、数値を測定したり、コンテンツの更新やメールの配信などの決まったタスクを大量にこなすことはできます。しかし、仮説を立てたり、コンテンツの中身を作成したり、改善のためにルールを変えたりすることはできません。

前回説明した、デジタルマーケティングの２つのPDCAサイクルに当てはめてみると、「ターゲット提案精度を上げることで獲得率を上げる」ことは、MAツールが得意とする分野です、数値を見ながら、担当が細かな調整を加えることで、実現可能です。その代わり、「ターゲット（セグメント）に応じた提案パターンを増やすことで対応量を増やす」ことは、ツールの数値を参考にしつつ、担当者の企画力がものをいう仕事です。得意なところを両者がうまく配分することによって、マーケティングアクセラレーションが実現します。

自社のデジタルマーケティングの方針を明確にして、まずはできることからやってみることが大事です。これからデジタルマーケティングの施策をスタートするのであれば、シンプルなフォームと顧客DBから初めてみるとよいと思います。フリーで使えるMAツールもあります。それで試行錯誤してみると何が課題なのか見えてくるはずです。そこから必要なツールを選んでも遅くはありません。自社の運営で必要となる機能を持ったツールを選べば良いのです。最初から高機能なツールを導入したところで、操作方法の習熟に時間がかかってしまえば、スタートが遅れて、成果が遠のいてしまいます。

マーケティングオートメーションで求められるのは社内コミュニケーションの効率化

マーケティングPDCAサイクルを高速で回すのが難しい理由は、社内コミュニケーションの増大です。デジタルマーケティング施策の実施では、毎日のように最適化を考えて改善を行うのですから、即断即決が求められます。デジタルマーケティングの細かい施策を、マスマーケティング時代のルールで、いちいち決裁していたら、PDCAサイクルはすぐにストップしてしまいます。

デジタルマーケティングを推進するには、社内の調整や承認にかかる「速度」を変更していかなければなりません。決定速度が遅いと、現場の担当者がいくら頑張ったところで、デジタルマーケティングで成果を上げていくことは困難です。決裁をする側の立場からいっても、細かい改善施策を報告されても、どう成果に結びつくのかを理解するのは容易ではありません。ここでは決裁というプロセスを重視するよりも、成果を重視して現場へ権限移譲をしていくことを推進すべきです。

権限移譲に抵抗がある理由の一つは、定期的に承認が上がらずに、どのように運営されているかわからなくなることです。うまくいっていなければ軌道修正が必要だし、いつまでもうまくいかないものにお金を払うことはできません。責任者である上司はそれが心配になるはずです。逆に成果が出ているのか出ていないのか、どのくらいの成果につながりそうなのか。それが、すぐにわかって対処できる手段があれば細かい決裁は省くことは可能ではないでしょうか。

MAツールはマーケティング施策の状態を日々リアルタイムで数値化します。今のまま施策を続けた場合の成果予測も可能です。社内からアクセスできる管理画面のトップは、「ダッシュボード」と呼ばれ、必要な数値データを一覧できます。詳しく知りたいことがあれば、すべての施策記録が残っていますから、さかのぼって経緯を把握することも可能です。

管理画面に毎日アクセスするのも面倒だ、ということであれば、「アラート機能」というものもあります。例えば、成果がある目標から大きく下回る場合には、上司のところにメール等で通知されるように設定できます。そうなった場合には担当者を呼び出して対策の説明をさせれば良いでしょう。いざとなれば、施策を止めたとしても、マスメディアのような大きな被害はありません。

ダッシュボードは上司だけではなく、営業やサポートなど、顧客と関連する部門にも共有されます。さらに、顧客が直接の提案を営業求めている、とか、トラブルで支給サポートしてほしいといったニーズについても、決められた部署や担当者に向けてリアルタイムで「アラート」が発信されます。それにしたがって対応することで、全社のお客様対応が迅速化します。

マーケティングアクセラレーションの推進は、あらゆるタスクの時間短縮を図ることによってお客様への対応を迅速なものとします。それによって顧客に満足を提供し、競合他社に先んじて売上を確保する全社の仕組み作りです。そのために、マーケティング担当者の業務とMAツールと役割分担して効率化。現場に権限を委譲し決裁にかかる時間を短縮。各部門が密接に連携できるようにして迅速な行動を促す。共通した目標と現状を誰もが数値で把握できるようにすることで、各人のやるべきことを明確化する。マーケティングアクセラレーションが目指すのは、マーケティングを「プロセス主義」から「成果主義」に変え、デジタルマーケティングの速度に最適化した社内体制を構築していくことなのです。

マーケティングオートメーション(MA)における賢いツールの活用法