なぜ、そんなバカなことを公開するのか？

「バカッター」が再び世間を騒がせている。回転寿司チェーン、コンビニなど、店舗の従業員がSNSに投稿した不適切な動画が炎上していたという事件である。「なぜ、そんなバカなことをしたのか？」と問う大人たち、「こんな騒ぎになると思わなかった」という少年達の間には、大きな断絶があるのではないだろうか。

事件の話題が盛り上がり「なぜそんなことをするのか？」という解説が識者の間でなされるなかで、堀江貴文（ホリエモン）氏はテレビ番組の中で「こんなのでいちいち騒ぐな」と切って捨てた発言も話題になった。*1

*1.堀江貴文氏が『5時に夢中！』で相次ぐバイトテロに持論　「もう自動化するしか無い」

この両者の視点の違いがこの問題を解く鍵となる。「なぜやるのか？」という風に捉える良識ある大人にとって、ネットは「わざわざやるもの」「面倒なもの」という意識が根底にあるのではないか。なんで、わざわざバカなことをやって動画も撮って投稿まで手間をかけてやるのだろう？という疑問がわく。そんなことをやるのは、バカで物好きなごく一部の輩だろう。だから、バカなことをやる人たちに共通する何かがあるのではないか？と考えて動機を見出して対策しようとするのである。

だから「こんな騒ぎになると思いませんでした」という発言も言い訳にしか聞こえない。騒ぎを起こすためにやったのだろう。若者の自己顕示欲の表れだ、自業自得だ。自爆するというイメージに重ねあわせたのか、無差別に人を殺すテロになぞらえて「バイトテロ」といった言葉も生まれている。

こんな騒ぎになると思わなかった

では、やってしまったのは、本当に、わざと悪いことをして意思を持って投稿し「世の中を騒がせよう」としたのだろうか？私はそうは思えない。本人が語る「こんな騒ぎになると思わなかった」はやはり本音なのだろうと思う。実際、あなたがこの動画のこと知ったのはいつだろうか？多くの人がこんな動画が投稿されたと知ったのは、SNSで見かけたわけではなくTVの報道だろう。オンライン上で話題になっている時に見ていたのは、あくまでごく一部の人である。ネット上の話題をマスコミに取り上げられ、企業が謝罪するにあたって、多くの人が知るという構図である。

そして一度話題になると、芋づる式に関連した動画が複数発見されることになる。二匹目のドジョウを狙ってマスコミが探し回るからである。今回もファミリーレストランでの動画が発見されたが、投稿されたのは約1年前だったそうだ。*2 要するに、ネット上には、話題にならない同種の動画が無数にあるということである。ネットは「バカッター」であふれており、それは、普通の（ちょっと迂闊な）少年少女達なのである。

*2.「バーミヤン」不適切動画で謝罪…鍋の炎でタバコに火

今回の寿司屋の動画はインスタグラムの「ストーリーズ」にアップされたという情報もあった。インスタグラムは、写真や動画にコメントをつけてアップして共有するSNSである。その中の一機能である「ストーリーズ」とは、個人が24時間だけ公開する仕組みになっている。当人からしたら消えると思ったら、誰かにキャプチャーされていたという「事故」なのである。多少強引だが、タレントのベッキーとミュージシャンの不倫が炎上した状況に近いと言えるかも知れない。当人たちはプライベートなLINEの画面がキャプチャーされて流出するとは夢にも思わなかっただろう。

SNS上には日々膨大な動画がネットにアップされて共有される。そのほとんどは仲間内で共有されるだけで、話題になることはない。その中で炎上する動画は、人が口にする「食品」が、関わっていること。さらに多くの人が知っている身近な「チェーン店舗」であることだ。その条件に合致した場合、本来伝えたかった仲間以外の「他の人」が取り上げて拡散されてしまうのである。

当人から見たら、周りもみんなやってるのに、なんで俺の動画だけがこんな問題になっちゃったのか？という疑問である。「バカッター」ではなく「事故ったー」という気持ちなのだろう。もちろん、そもそもあのような行為が許されるわけではない。しかし、写真や動画を自撮りして、ネットにアップして仲間同士で共有することが、彼らの日常だということは知っておくべきだ。

「眺めるだけの人」と「参加する人」との断絶

この事件から見えてくるのは、SNSと関わる中での、「眺めるだけの人」たちと「参加する人」たちとのSNSに対する意識の「断絶」である。両者のSNSに対する意識は全く異なっている。眺めるだけの人から見ると、モノ好きがアップして炎上するという対岸の火事に過ぎない。バカな奴もいるものだと言っても他人事である。

しかし参加する人にとっては大問題だ。SNSとは仲間内で情報をやり取りするためのメディアである。小学生の頃に授業中、先生に隠れてこっそり手紙を回し合うようなものだ。それをテクノロジーで代替えしているのである。しかも新しいタイプのSNSも続々とリリースされ、既存のSNSも新たな機能が追加させている。この機能をいかにうまく使いこなすかが、仲間内の結束を強くすることにもつながる。そうして新しい情報共有の「ルール」が生まれていくのである。

このような状況の中で、企業はSNSとどう向き合うべきなのだろうか？SNSを眺めるだけの人たちが多い会社は、SNSはなんとなく得体が知れない怖いもの、という意識を持つ。そうなるとSNSは自社のビジネスにとってデメリットしか感じなくなる。従業員は悪さをするから、スマホなんて見せたくない、仕事中は絶対にSNSにもアクセスさせないようにする、といった対策になるだろう。さらに自社の公式SNSアカウントも投稿は慎重にする、不必要な投稿は控えるように指示を出す可能性もある。SNSでのコミュニケーションを制限することで、問題を回避しようとするのだ。

多くの若者は日常的にSNSに接している。中でも参加する人たちにとってのSNSは、自分と周囲との関係の中で必須のものとなっている。少々の問題が出た所で使うのを諦めることはできない。そもそも自分から報道されたようなモラルの無い動画をアップすることはないし、仲間内でもやりそうな奴はいないというのが本音だろう。仕事中はルールだったら止めるけれど、プライベートは縛られない。SNSで仲間内のやり取りをして、出かける時はSNSで知りたい情報を得る。モノを買う時もSNSで評判を見る。SNSへの依存度が高い。

眺めるだけの人たちが、テレビや新聞、雑誌といったマスメディア、大手の比較サイトや、メーカーの公式ウェブサイトを検索して得ている情報である。参加する人たちにとってはウェブサイトが、情報を発信するまでにタイムラグがあるので古くさい。それに比べて、SNSはよりリアルタイムに情報を得られるから便利なのである。この両者の断絶がわかりにくいのは、スマホを通してインターネットを使うというところまでは共通しているからである。SNSに対する参加意識の違いで見えている風景が違っているのだ。

将来を見据えて、今から取り組むべきこと

眺めるだけの人たちにも唯一の例外がある。LINEである。電話の代わりだと捉えている人も多いと思うが、これも立派なSNSだ。連絡手段として使っていても、文字だけでなく絵文字やスタンプを使うLINEの中でのコミュニケーションは、電話とは異なることを理解することはできるだろう。日常的に欠かせないツールとなっているから、今更やめようと思わないだろう。あなたはLINEを使い始めてどのくらいになるだろうか。LINEは2011年にスタートしたサービスである。ほんの7年で、誰もが使うコミュニケーションインフラに成長している。そして、これからもこのように世の中を変えるような新しいサービスが生まれてくるだろう。

今後、様々な場面でSNSに参加する人たちが増えていけば、SNSのビジネスにおける重要性は高まる。SNS上でのコミュニケーションの良し悪しが企業の認知や好感の獲得に影響する世の中になる。それを見越して今から少しずつでも準備していかなければならない。SNSでのコミュニケーションに消極的な企業が、広まってから急に方針転換したとしても、複雑化しているSNSの仕組みに精通していないと難しい。さらに新たな競合がSNS上で確固とした地位を築いているかも知れない。SNSを十把一絡げにして、危ないから使用を止めなさい。と言うのは簡単だが、世の中の流れから確実に外れていくだろう。問題が噴出している今こそ、SNSの現状を把握して企業がどう取り組むべきか考える良いタイミングなのだ。

SNSの風評リスク対策のために行うこと